千のブリトー

生涯大学1年生

【感想】『帰ってきたヒトラー』は日本人には分かりえない感覚(?)

 

年末の新幹線で読むために何か本を買っておこうと思って本屋で見つけたのが最近映画にもなった『帰ってきたヒトラー』だった。

 

帰ってきたヒトラー 上 (河出文庫 ウ 7-1)

帰ってきたヒトラー 上 (河出文庫 ウ 7-1)

 

 

表紙からもう相当イカしてんだよな…これカフェで読んでたら文化水準がにじみ出ちゃうでしょ、水準がさ。対面のオンナが大洪水起こしちゃうよ…

僕自身、自分でもドン引きするくらいの遅読で、3年前に勝ったアランの『幸福論』を未だに半分くらいしか読んでない(電車内でしか読まないというのもあるけど)くらいの低能なんだけど、

この『帰ってきたヒトラー』は上下巻合わせて二日で読んでしまったくらいに面白かった

 

2011年8月にヒトラーが突然ベルリンで目覚める。彼は自殺したことを覚えていない。まわりの人間は彼のことをヒトラーそっくりの芸人だと思い込み、彼の発言すべてを強烈なブラックジョークだと解釈する。勘違いが勘違いを呼び、彼はテレビのコメディ番組に出演し、人気者になっていく…。

ストーリとしては、ヒトラーが現代にタイムスリップしてきて、コメディアンとして彼のパフォーマンス(演説)をTVで放送していくんだけど、彼の人気がYouTubeでバズられ、〈狂気のユーチューブ・ヒトラー〉として現代のYouTuber達に取り上げられているさまは、本当にイマ風だな、というか現代であればこうして見聞が広まっていくんだなと、若者である自分として読んでいてヘンな気分になった。

僕が読んでいて一番面白いと感じたのは、あたかも本当にヒトラーがそう思っているかのように感じさせる文体でストーリーが進められていく点だった。

訳者解説でも取り上げられているんだけど、本書の「オレ文脈」(ヒトラー本人視点で語られる文)は、ヒトラーをよく知らない僕でもそこにヒトラー的な独善性のようなものを感じられたし、指導者が持つ自己中さが読んでいてとても心地よかった。

 

本書の後半には〈ニューヨークタイムズ〉の書評が載せられていて、「タイトルはヒトラーの風刺小説の成功をドイツ人はどう受け止めるか」というものになっている。

戦後多くのヒトラー俳優、ナチスのパロディが生まれてきたとは言え、やはりドイツ人にとっては「ヒトラー」は絶対悪であり、ネタにできないモノ という認識がまだまだ根強くあるらしい。

作者のティムール・ヴェルメシュは「僕らは同じストーリーを語り継がなければならない。しかし、方法は同じである必要はない」の述べていて、ヒトラーが生んだ過去を悪しきものだ、ユダヤ人と共存していかなけばならない、と同じように聞かせるのではなく、まるで自分もストーリーに参加しているかのように面白く歴史を語り継ごうとした点も、スゴイの一言だった。

しかし、これは僕がただ単にバカだからかもしれないけど、僕の中のヒトラーはなんというか、「悪のカリスマ」みたいな認識にとどまっていて、どちらかといえば好感に近いものを持っている。

僕の中では本当にバカみたいな話だけど、ジョジョの奇妙な冒険シリーズの「DIO」や、機動戦士ガンダムの「ギレン・ザビ」と同じあたりの位置にヒトラーが居るから、ドイツ人がこの本に関して否定的な印象を持つ、という感覚自体が全く分からない感覚なんじゃないかなーと読んでいて感じた。

日本のマンガにはナチスの”狂信的な部分”をある種のカッコいいものとして表現しているようなものもあるくらいで、誇張するならば、僕みたいな若者の中では、僕と同じような認識を持っている人が少なくないのかもしれない。

日本の歴史教育は海外に比べて、古代から現代までまんべんなく教えるせいで、近現代史をあまり重視しないみたいな話を聞いたことがあるけど、もしかしたらこういう部分にも影響はあるのかも…?

これは完全に僕の個人的な考えなんだけど、ドイツ人に対する「ヒトラー」はもしかしたら日本における「原爆」くらいの感覚に位置していて、確かに広島、長崎に落ちた原爆をブラックジョークとして小説にしたら日本でも多くの物議を醸すことになるかもしれない。でもこうして原爆に対する物語が語り継がれていくわけで、『帰ってきたヒトラー』の作者はそうやって歴史を風化させないことを望んでいるんだと考えると妙に納得がいってしまった。

 

政治もドイツの歴史も何も知らない僕が楽しめたんだから詳しい人はもっとハマる内容になっていると思うから、興味が出たら読んでみてね。映画も最近レンタルが始まったから、予習として初めに小説を読んでおくのもいいかも。

 

 

それではともかく、

 

 

 

 

ジークハイル!!!!